楽CD WILSON PICKETT / FUNKY MIDNIGHT MOVER
2010 / 05 / 09 ( Sun )
WILSON PICKETT / FUNKY MIDNIGHT MOVER (RHINO RHM2 07753)
THE ATLANTIC STUDIO RECORDINGS (1962-1978)
2010 Notes : Jerry Wexler, Steve Cropper, Michael Johnson, Chris Morris, Bill Dahl

まさにこれは快挙、赤飯を炊いて祝いたいくらい。Atlantic の全 LP にシングル 4 曲、Atlantic 傘下の Big Tree から 78 年に発表された LP 及び 77 年にリリースされた Erva のシングル、さらに The Falcons 時代の 3 曲及び Atlantic 以前の Double L の LP、加えて未発表曲及び別テイクが 18 曲、全 154 曲を収めた Wilson Pickett の Atlantic 音源集。もうこれ以上のものは無いと思われるほどの内容。100 ページ近くあるブックレットには全ての曲についてコメントがあり、ピケットとともに素晴しいサウンドを世に送り出したミュージシャン達の貴重な証言も。感激したのは、レコーディング・データーが完璧なところ、録音日、プロデューサー、スタジオ、バックのミュージシャンについても明確に記載されている。未発表曲を除き、録音順に曲を並べた配慮も、編纂者が分かっていらっしゃって嬉しくなってしまう。ちょっとはしゃぎすぎと言われそう、はじめてディープ・ソウルの魅力を教えてくれたピケットに対する思い入れは今もって強いが、周りのコアなディープ・ソウル・ファンにはピケットの受けはあまりよろしくないからね。コレクターを熱くさせるようなレアなシングルがあるわけではなく、オーティス・レディングのような革新的なシンガーでもなく、ジェイムス・カーのように過小な評価しか与えられていなかった不遇なシンガーでもなく、Wicked と呼ばれるように人間性に対する風評も良くない。最もポピュラーなソウル・シンガーなので、今さら再評価でもないが、知ってるつもりでいるソウル・ファンもこのアルバムをじっくり聴いていただければ、彼に対する印象も変わるのではないかな。
ソウルを変えた名曲 I Found A Love で始まるが、ファルコンズ時代のピケットについては、後でコメントすることにしたい。初のソロとなる Correc-Tone 盤のバック・コーラスはシュープリームスの前身 The Primettes というのは通説と思っていたが、ライナーでは Unknown となっていますね。Double-L はモータウンを離れた Robert Bateman がプロデュースしたもの、If You Need Me のバックは James Jamerson、Benny Benjamin、Joe Hunter といったファンク・ブラザーズの面々とあり、これには驚いた。ソロモン・バークでヒットした If You Need Me、同じくバラードの It’s Too Late と I’m Down To My Last Heartbreak、アップ・タウンな I’ll Never Be The Same、サム・クックの趣もある Give All Your Lovin’ Right Now など、いずれも 63 年当時としては破格にディープである。なお、Down To My Last Heartbreak については Kenny Ballard (Dynamo 106) がカヴァーしているものも秀逸、Baby, Don’t You Weep は Fred Bridges (Brothers Of Soul) が書いた曲で Bridges 自身のシングル (Versatile 111) もある。64 年 6 月、アトランティックでの最初のシングル For Better Or Worse はピケット自らプロデュースしたデトロイト録音、ファルコンズの熱気そのままの絶叫バラードだ。バート・バーンズによる NY 録音に続き、アトランティックの Jerry Wexler はピケットとともにメンフィスに赴く。Disc 1 の 21~29 の 9 曲が彼の運命を変えた Stax 録音、セッションは 65 年の 5 月、9 月、12 月の 3 回にわたって行われている。ナンバー・ワン・ヒットを記録した In The Midnight Hour と 634-5789 の 2 曲はスタックス・サウンドを代表するようなドスンとシンプルなサウンド、音に何ともいえない間とタメがあって色気を感じる。久しぶりに聴いた That’s A Man’s Way と It’s All Over の 2 曲のバラードにも唸ってしまった。さらに I’m Not Tired には参った。疲れをいやすようなミディアム・ナンバー、ピケットの歌いっぷりはまことにおおらかで伸びやかだ。ここで、我家のターン・テーブルでは 2 回ぐらいしか回ったことの無いシングル盤を引っ張り出してきた、聴き直すこと十回、声の魅力という点に限って言えば、この頃が一番だったかもしれない。スタックスは 66 年を境に外部の録音を行わなくなるのだが、ピケットもその家族的な雰囲気にはそぐわなかったのだろう、レコーディング拠点をアラバマのマッスルショールズに移すことになる。You’re So Fine と Disc 2 の 1~28 が 66 年 5 月から 67 年 2 月の間に行われた 4 回のセッションの成果。ジェリー・ウェクスラーは、メンフィスから Chips Moman を招聘、66 年 5 月のセッションにはスタックスのメンフィス・ホーン (Wayne Jackson、Andrew Love、Floyd Newman、ニューマンは 67 年 2 月のセッションでも演奏している) も参加し、まさに最強の布陣で制作された珠玉の作品集、ピケットの歌だけでなくバッキングも聴きものだ。Land Of 1000 Dances での Roger Hawkins のタイトなドラミングと重厚なホーン・セクション、Something You Got でのモーマンのギター・ワークもお見事というしかない。Dan Penn & Spooner Oldham 作の名曲 She Ain’t Gonna Do Right はピケットがオリジナルにして最強、シングル・カットされなかったのが不思議なくらい。In The Midnight Hour 以降、アトランティックのシングルは両面リズム・ナンバーというカップリングが多く、Up Tight Good Woman や I Found The One といったサザン・バラードの良作も LP でしか聴けない。前者は言わずと知れた Spencer Wiggins の曲、どちらが好きかなんて野暮なことは聴かないでね、後者はピケットの盟友 Bobby Womack の作。ウ―マックの曲では Nothing You Can Do もストリートにくり出していくようなダンス・ナンバーで楽しく勇ましい。メンフィスとマッスルショールズのミュージシャンが後ろ立てになってくれるのだから、ピケットも怖いものなしだ。なお、この曲には、ボビー・ウ―マック自身のヴァージョン (Him 1001) もある。なじみのある曲が多く、Mercy, Mercy や Barefootin’、Sunny、Mustang Sally、Time Is On My Side、Knock On Wood は説明不要でしょう。ヒット曲のカヴァーばかり、皆がピケットに熱心になれない一因かもしれない。New Orleans は Gary U.S.Bonds、Ooh Poo Pah Doo は Jessie Hill、Love Is A Beautiful Thing は The Young Rascals、Funky Broadway は Dyke & The Blazers といった具合、いずれも彼ならでは節回しで歌われており、バッキングも文句無しなんだけどね。Everybody Needs Somebody To Love はソロモン・バークを上回るヒット、ジョン・ベルーシもピケットに捧げると言って歌っていたのを思い出した。I Need A Lot Of Loving Every Day は Mighty Sam (Amy 984)、Mojo Mamma は Don Varner (Quinvy 8002) にも歌われている曲。You Left The Water Running は Barbara Lynn (Tribe 8319) がオリジナルで、ビッグ・オー、James & Bobby Purify や Maurice & Mac といった強力デュオも録音しているが、マイ・ベストは Billy Young (Chess 1961) かな、マッスルショールズが生んだジャンプ・ナンバーの傑作である。She’s So Good To Me は Sar の Valentinos の曲、I Found A Love はファルコンズの再録。ボビー・ウ―マック作の I’m Sorry About That は私が最も愛するピケットのディープ・バラード、荒くれ者がひざまずいて懺悔するといった趣が何ともいえず、尋常ではない説得力で胸に迫ってくる。同じく67年2月のセッションとなるSomething Within Meもウ―マックが書いたもの、ピケットには珍しいダウン・ホームなバラードで、なかなか味わいのある曲だ。Disc 2の29、30、Disc 3の1~8、11~16はメンフィス録音、チップス・モーマンのアメリカン・スタジオで67年7月と68年3月にレコーディングされている。ギターはウ―マックと Reggie Young、ピアノは Bobby Wood、ベースは Tommy Cogbill、ドラムが Gene Chrisman、ホーン・セクションは Gene “Bowlegs” Miller、Charles Chalmers、Floyd Newman、このメンバーも凄い。Roger Collins (Galaxy) のリメイクとなる She’s Lookin’ Good も迫力満点だが、I’ve Come A Long Way、さらに I’m In Love、そして Jealous Love と、このバラード 3 連発には言葉を失う。いずれもボビー・ウ―マックの曲 (Jealous Love は King Curtis との共作) で、I’ve Come A Long Way は内省的なバラード、ボビー自身の Chess 録音は当時日の目を見なかったが、P-Vine のヴァレンティノスの LP で聴くことができる。ヒットした I’m In Love はメロディーがひときわ美しく力強い、ボビーのギターも冴えわたり涙を誘う。ピケットのバラードと言えば、やはりこの曲、大ヒットし、ダンス・ナンバーのピケットという印象をがらりと変えてくれた。Don’t Cry No More はボビー・ブランド、Bring It On Home To Me はサム・クック、Stag-O-Lee はロイド・プライスのカヴァーとなる。68 年 3 月のセッションで録音された 5 曲のライター・クレジットにはすべてボビー・ウーマックの名前があり、I Found A True Love は Checker で、Trust Me は Minit でボビー自身のシングルもある。Janis Joplin にも歌われている Trust Me だが、これはまさに男泣きのバラード。It’s A Groove も沁みる。Remember, I Been Good To You はテンポの良いナンバー、ピケットの歌いっぷりもいつになく軽快だが、ボビーとレジーのギターさばきが聴きどころか。I’m A Midnight Mover はアップ・ビートのダンス・ナンバー、こういうのはマッスルショールズのバックの方が映えるかな。Disk 3 の 17~28、Disk 4 の 1~2 は、68 年 9 月から 69 年 5 月にかけ、再びマッスルショールズでレコーディングされている。最初のセッションで、ディープ・バラードの新たな傑作 People Make The World が生まれた。このシングルのフリップ・サイドが A Man And A Half、ゴールドワックスが倒産してアラバマにやってきた George Jackson がソング・ライターとして参加している。これは大好きな曲、タイトなリズムとドラマティックな展開、思う存分パワフルなヴォーカルがこだまするまっ黒なダンス・ナンバーである。ミディアムの Woman Likes To Hear That もジョージ・ジャクソンの作、優しくなれる曲だが、強引にシャウト、誰かの言でピケットのシャウトは音程が完璧とライナーにもあったが、こういったところが疎まれるのかな、これ見よがしな感じで胸に響いてくるものが足りないという気がしないでもない。Hey Jude が録音された 68 年 11 月のセッションからはギターが Womack & Jimmy Johnson から Duane Allman & Jimmy Johnsonに代わっており、以降、ピケットはボビー・ウ―マックの曲を歌っていない。それにしても、ビートルズを悪く言うつもりはないが、このヘイ・ジュードはまったくイケていない、フリップ・サイドの Search Your Heart の方が断然魅力的だ。そして、極めつけはジョージ・ジャクソンが曲作りに携わっている Back in Your Arms だろう。これは何度聴いたかわからない。曲の力とピケットの歌の力が拮抗して得も言われぬディープ・ソウル・バラードの桃源郷が展開される。ここで表現される思いは深く切実だ。Save Me はジョージ・ジャクソンと Dan Greer のコンビが書いた曲、ちょっと Spencer Wiggins とイメージがダブるかな。Mini-Skirt Minnie は興味深い曲だ。Stax の Sir Mack Rice のナンバーとは別物、元々、Lindell Hill という白人シンガーと Steve Cropper が Used To Be Loved というタイトルで書いたもので、Lindell Hill のヴァージョンでは、クロッパーの職人肌のギターが聴ける。メンフィス録音と信じて疑っていなかったが、ライナーによれば、セントルイスでヴォーカルとリズム・トラックがカットされ、クロッパーの手によってメンフィスでホーンとバック・コーラスが付け加えられたようだ。シングルは Remone という美しいバラードとのカップリングでスタックスが配給していた Arch というレーベルから 68 年にリリースされている。私はくっきりとリズムを刻む Lidell Hill の方が好きだが、ピケットの Mini-Skirt Minnie の派手派手な感じも悪くない。派手と言えば、Johnnie Taylor のカヴァーとなる Toe Hold もしかり、オールマンのギターのせいかロックっぽい。Born To Be Wild や Hey Joe となると私の許容範囲を超えている。この後、マイアミ、フィラデルフィア、マッスルショールズでレコーディングを行い、3 枚の LP を残し、Don’t Let The Green Grass Fool You と Don’t Knock My Love はミリオン・セラーを記録している。70 年のLP “ Right On ” はマイアミ録音だが、半数の曲はマッスルショールズのミュージシャンがフロリダに赴いて録音されたもの。シングル・オンリーの Cole, Cooke & Redding もDisc 4 に収録されている。楽本で紹介したゴスペル調のバラード・ナンバー、ピケットのヴォーカルも神々しい。ピケットは 72 年に RCA に移籍するが、78 年、アトランティックの傘下 Big Tree から LP “ Funky Situation ” を発表している。そして、未発表音源となるのが Disk 6 の 18 曲だ。Atlantic Unearthed / Soul Brothers (Rhino R 77625) に収録されていた Can't Stop A Man In Love 以外は初めて聴く。勝手に In The Midnight Hour から Hey Jude あたりの音を期待していたが、Hallo Sunshine の別テイクを除き全て 69 年以降の録音。この 18 曲を聴いて、いろいろ思うところもあるが、文章にまとめるのは難しいので、何回も繰り返して聴いた曲について、簡単にコメントするにとどめたい。ピケット・ファンに喜んでもらえる曲ということでは Can't Stop A Man In Love が一番かな、軽快なリズムのミディアム、ピケットのスムーズで豪快なヴォーカル実に心地よい。さらに、驚き感激したのは I’ll Be There というスケールの大きなスロー・バラード、こんなに優しさと慈しみに満ちたピケットの歌声を聴くのは初めてだ。Many Roads To Travel や Heaven しかり、ピケット自身が歌いたかったのはこういった曲だったのかもしれない。ストレートなゴスペル・ナンバーも残っていて、アップ・ビートの Believe I’ll Shout は即興で歌ったのだろうか、もの凄いシャウトの連発である。Rock Of Ages は 6 分を超える大作ゴスペル・バラードだ。
ライナーをもう少しちゃんと読めたらと心残りもあるが、新たに知ったことや気付いたこともあったし、楽しかった。Wilson Pickett について熱く語りあえるソウル・ファンが増えてくれることを期待して、終わりとさせていただきます。
The Falcons / Pow! You’re In Love (United Artists 289) -1961
Wilson Pickett がファルコンズで最初にリードを取っている曲、60 年 9 月にレコーディングされている。Sam Cooke が Joe Stubbs のために書き下ろしたものだったが、新たにメンバーに加わったピケットに向いているということで彼のリードで歌われたようだ。滑らかなテンポのダンス・ナンバー、まだ 19 歳のはずだが、実にしなやかで情熱的な歌いっぷり、これには驚いてしまう。楽しくわくわくさせてくれる素晴しい曲、以前紹介したファルコンズの 3 枚の LP にも収録されていないのが残念だ。なお、フリップの Workin’ Man’s Song は Mack Rice がリードのリズミカルなダンス・ナンバー、バックでピケットの声もばっちり聞こえる。 ピケットがリードのファルコンズは次のとおり。
I Found A Love / The Swim (Lu Pine 103) - 1962
Take This Love I've Got / Let's Kiss And Make Up (Atlantic 2179) – 1963
Lu Pine 盤は、Atlantic の配給で再度プレス (Lu Pine 1003) されており、I Found A Love と Atlantic のシングルは Rhino の CD にも収録。強烈なシャウトで煽り立てる The Swim は Robert Ward / Hot Stuff (Relic 7094) で聴くことができる。
You’re On My Mind / Anna (Lu Pine 003) – 1965 ?
United Artist の頃の未発表音源を Robert West が後になってプレスしたもののようだ。さらに、ピケットがリードとされる未発表曲は It Was Mean To Be、Billy The Kid、Part Time Loveと 3 曲があり、Lu Pine 003 の両面及び未発表のうち 2 曲はThe Falcon’s Story Part 2 (LP Lu Pine 8006) に収録されている。
なお、The Falconsのディスコグラフィーについては Marv Goldberg氏のVocal Group Harmony Website (http://www.uncamarvy.com/Falcons/falcons.html) を参考させていただいた。
pickett cd
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コメント
--お宝物--

すぐにsold outになったようですが、なんとか手に入れました。おっしゃるとおり感慨無量ですね。ピケットと言えば一般的には、ファンキー親父で片付けられたり、お金に関する執着とか、あまり良い評判は聞きませんが、改めてこの塩嗄れた声に耳を傾けれけば、やはり唯一無二のソウルシンガーであったと確信いたします。「Back In Your Arms」。私にとってはやはりこれですね。途中で感極まったように入る「Load Have Mercy」というところで、いつも唸ってしまいます。ただリマスターということで音質の向上を期待していたのですが、こちらはそれほどでもないようですね。マスター自体がよくないのでしょうね。とにかく今年一番のサプライズ。家宝として末永く愛聴していきます。ところで佐野さん、最近、レビュー掲載の数が少ないように思いますが、お忙しいのでしょうか。英kentからスペンサー・ウィギンスのFame録音集も出るようです。レビュー楽しみに待ってます。
by: m.k. * 2010/05/17 23:52 * URL [ 編集] | page top↑
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なかなか時間がなくて、告知以外の更新ができていませんが、やめることはありませんので、よろしくお付き合いください。
by: SANo * 2010/05/19 07:27 * URL [ 編集] | page top↑
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