ギャンブル考 : 「ワインは死の香り」 「競輪上人行状記」
2014 / 06 / 06 ( Fri )
馬券も車券も舟券も買ったことがない。麻雀のルールも知らないし、パチンコ屋も 30 年以上ご無沙汰だ。世間では、こういう人を真面目だと言うようである。男の道楽はコレクターというのは少数派、やはり、「飲む打つ買う」 が通説らしい。飲むと買うとは限度がある、限度が無くて怖いのがギャンブルの世界だ。勝ったらやめられないし、負けてもやめられない、はまったら最後、行きつくところまで行きつかないと終わらない。賭け事をしないのに、どういうわけか、その心理やギャンブルにとりつかれた人間には関心があって、小説や映画でもギャンブルを扱っているものには、直ぐに飛びついてしまう。しかし、興味を満たしてくれものはほとんど無くて、勝ち負けで一喜一憂するゲームになり下がっていたり、とんでも楽天な男のロマン的な扱われ方も多い。そんな中でも、私のツボを突いて思わず 「そこそこそこなのよ」 とうめいてしまった 1 冊の本と 1 本の映画を今回は取り上げたい。
ちなみに、私がギャンブルをやらないのは、自分に運があるとは思えないから、これは実に情けない理由だが、白黒はっきりつける勝負事というのがあまり好きではないということもあるようだ。私の知る限り、ソウル・ファンでギャンブル好きという人もあまりいないようで、この理由は定かではない。

リチャード・コンドン ワインは死の香り
「ワインは死の香り」 (早川書房、ハヤカワNV文庫、ハヤカワ・ノヴェルズ)
作者のリチャード・コンドンは、映画にもなった 「影なき狙撃者」(1959 年)、ケネディ暗殺事件をテーマにした 「ウィンター・キルズ」(1974 年) で知られるアメリカの作家、本書は 1972 年の作。
コリン・ハンティトンは、将来を嘱望された英国海軍大佐だったが、ギャンブルをめぐるトラブルで、若くして退役、ロンドンでワイン商を営んでいる。商売も順調、結婚した妻のビッツィはアメリカ人の大富豪で親戚一族のコネクションを利用し着実に資産を増やしている。美食家でもあるコリンは有名シェフのフランコオガールを自分のお抱え料理人として雇い、パリに囲っている愛人のイヴォンヌは美人で情が深い可愛い女だ。まさに人も羨む身分なのだが、彼のギャンブル狂いは収まらず、多額の借金を背負い、家も会社も情婦も料理人も妻も失うところまで追い込まれてしまう。どうしてもお金が必要、猶予は 2 か月、そこで思い立ったのが、ボルドーのワイン倉庫から 1 万 8 千ケースのワインを盗み出す計画だ。元同僚で闇のシンクタンクの親玉となっている友人がプランを作成、ギャングのボスであるイヴォンヌの父が人材と機材を調達。さて、この切羽詰まった男の一発逆転の大勝負は成功するのか。登場人物が極めて個性的でやることなすこと笑ってしまう。乗っ取った大型フェリーを使った略奪は、ケイパー映画 (「アスファルト・ジャングル」「男の争い」「黄金の 7 人」「華麗なる賭け」「ホットロック」 等) 的な面白さがある。綿密な計画とプロフェッショナルな男たちによる連携プレー、思わぬ事態にもハラハラドキドキ。ただ、まともな人間が一人もおらず、人を傷つけずにワインを奪うというコリンの当初の楽観的予定は、どんどん裏切られ、次々と人が死んでゆく。そして、あっと驚きの結末。原題が ARIGATO、コリンの友人で海上自衛隊二佐の藤川勇太氏が彼にかける言葉、作者のおふざけは徹底している。勝てばやめられず、負けてもやめられないギャンブル地獄。主人公のコリンは大馬鹿ものの楽天家、なおかつ幸運に恵まれた男なのでありました。本作は一級品のエンターテインメントであり、私にとってはギャンブル小説の傑作でもある。だけれど、正統的なクライム・ストーリーを期待する人、不謹慎なものでは笑えないという方は、この本に不快感を覚えるかもしれないな。
妻と愛人はタイプと価値観は違っても、いたって現実的な常識人。なのに、出てくる男達は主人公をはじめ非常識でどこか上の空、そこで、思わずうなってしまった一節がありました。
「男性というものは、しょせん自分自身にしか価値の測りようのない幻想を食って生きているロマンチストにすぎなかった」 (文庫版 111 ページ、後藤安彦氏翻訳、原文のまま)
私の常套句 「男とは、自分自身にしか分からない価値観の中で自己満足している動物」 というのはここから来ています。なお、本作の続編 「オパールは死の切り札」 も翻訳があり。

競輪上人行状記
「競輪上人行状記」 (けいりんしょうにんぎょうじょうき)
1963 年、日活。寺内大吉の 「競輪上人随聞記」 が原作、今村昌平と大西信行が脚色、監督は西村昭五郎。知られざる傑作、以下ネタバレです。
中学の体育教師をしている春道 (小沢昭一) は、先祖代々の寺を継いだ兄が死んだことから、いやいやながら寺に戻った。寺の本堂の再建費用がなかなか集まらず苦労していたある日、競輪場の前を通りかかり、彼は車券を初めて買ってみた。これがビギナーズ・ラックで大あたり、これで再建費用を稼げると勘違い、競輪に明け暮れるが、思うようにいくわけもない、貯めてあった 150 万円の再建資金もすっかりすってしまう。情けない春道だったが、反発していた父が亡くなったことで、ギャンブルも辞め、寺の住職として生きる決心をする。そんな折、教え子であったサチ子 (伊藤アイコ) が彼を頼ってやってくる。春道はサチ子を引き取り、兄嫁のみの子 (南田洋子) に結婚を申し込んだところ、彼女から父との関係を知らされる。兄は子種が無く、寺の後継者が必要だと言われ、舅に身を任せたというのだ。パニックをきたした春道は、ふたたび競輪にのめり込む。借金はたまる一方、寺まで売却するハメに。借金返済で残った 50 万円、春道にはすがるものは競輪しかなかった。運命の一点買い、見事に勝って、寺を買い戻す。寺はみの子に任せ、春道はサチ子を連れて旅に出る。そして 5 年後、青森の競輪場で予想屋として説法する春道の姿があった。人は彼のことを競輪上人と呼ぶ。
春道は私自身に似たところが多い、頑固で融通がきかない、堅物で世間知らずのところもある。論理的に冷徹に物事を見ることが苦手で、優しさゆえに情に流されやすい。いつも空回りしている感じである。もっともらしいことを言っても、自分には力も才能も無い、結局、迷える男が唯一すがりついたのがギャンブルだ。普通ならギャンブルにはまって、そこから抜け出すことに四苦八苦するのだが、本作では、競輪に悟りを求めたというところがけっこう深くて面白い。
3 人の女性が登場する。春道の抑圧された性的欲望の対象であった女、兄嫁の南田洋子さん。とても静かで従順なのだが、供養を依頼された犬の肉を飲み屋に卸していたり、SM 的な妄想を抱いたり、神経が太いのか繊細なのか分からない不思議なところも、さらにはじんわりとなんだかエロティックなのである。春道を頼る少女、ちょっと頭の足りなそうな教え子の伊藤アイコさん、全く色っぽくないところがかえって生々しい。結局、「あいつ (南田洋子) は一人で生きられるけど、この子は俺がついていないとダメだ」 と春道は少女と生きることを選択。守ってあげなければという女は安心だし、心が平穏でいられるからなのか。でも、借金取りに追いまくられた春道が彼女を売ろうとするシーンもあり、「オイオイ」 と突っ込みたくもなった、追いつめられた人間は恐ろしい。そして通りすがりの女、最後の勝負で春道が競輪場で出会った女ギャンブラーの渡辺美佐子さん。なんだか様子が尋常ではない、人生をかけたレースに負け、春道に 3 千円借りるが、金は身体で払うと無理やり春道をホテルに連れ込む。無理心中を図るが失敗、「あんたは本当についてる」 と言いながら、自らの命でギャンブルというのは甘くないのだとくぎを刺す。実は渡辺美佐子さんは好きな女優さん、あまり本筋には関係ない存在だが、本作にデーモニッシュな味わいを与えていて、私にとっては 3 人の中で最も印象が強かった。
そして、やっぱり、春道が苦悩の末に行きついた先、法衣を着て競輪客たちに説法するラスト・シーンは圧倒的だ。西村昭五郎監督、そして天国の寺内大吉先生と小沢昭一さん、ありがとうございます。
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