エリナー・ファージョン 「本の小べや」
2014 / 07 / 31 ( Thu )
小学生の頃は、図鑑や百科事典が好きで、勝手に自分のライフ・ワークと思い込んでいた考古学や天文学の本は同じものを頁が擦り切れ表紙がボロボロになるまで飽きることなく読み返していた。そんなことで、児童向けの図書を読んだ記憶はわずかで、「小公子」 「小公女」 「宝島」 といった定番くらいしか思い出せない。読書の愉しみを知るようになったのは、中学校に入ってから、どこをどうしたものか、いつの間にか理科系人間から文科系人間になっていたのだ。高校、大学と、読み物に対する欲求は果てしなく、ミステリ、SF、ファンタジー、ホラーと主流文学から外れたところを乱読、ロード・ダンセイニ、デ・ラ・メア、ウィリアム・モリス等に出会い、マルセル・エイメやイタロ・カルヴィーノ、カレル・チャペックの子供向けの小説も楽しく読んだ。遅ればせながら、中年親父には場違いな図書館の児童書コーナーにも足を運ぶようになった。そして、児童文学として扱われているもので、大人が読んでも感動できる、否、大人こそ読むべき本や作家があることを知った。今回はそんな素晴しい作家エリナー・ファージョンの 「本の小べや」 という短編集を紹介したい。

エリナー・ファージョン (1881~1965年) はイギリスの女流児童文学作家。岩波書店から 「ファージョン作品集」として、「年とったばあやのお話かご」 「イタリアののぞきめがね」 「ムギと王さま」 「リンゴ畑のマーティン・ピピン」 「ひなぎく野のマーティン・ピピン」 「銀のシギ」 「ガラスの靴」 の代表作 7 冊が刊行されている。

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「本の小べや」 (「ムギと王さま」「天国を出てい行く」) (石井桃子訳、岩波少年文庫)
岩波の作品集で 「ムギと王さま」 として出ていた短編集を少年文庫に収録するにあたり、タイトルを原題である 「本の小べや」 に改題し、2 分冊としている。なお、「ムギと王さま」 には抄訳本もあるので、作品集の完訳本かこの少年文庫 2 冊で読まれることをお勧めしたい。
70 歳を過ぎたファージョンが、それまで書いたお話のうちから 27 編を自選して編んだ短編集。子供が主人公だが、寓話的なもの、現実の子供の生活をもとにしたもの、昔話風なものとバラエティーに富んでいる。「ムギの王さま」 は時空を超えた不思議な話、豊かさとは何かを問うている。ファージョンらしさというか、私の好きなファージョンは、王さまとか王女さまが出てくる話よりも現実の子供たちが出てくる作品。中でも、「サン・フェアリー・アン」 には涙があふれてしょうがなかった、美しいささやかな奇跡のお話だ。「《ねんねこはおどる》」 に登場する 10 歳と 110 歳のグリゼルダも忘れ難い。「貧しい島の奇跡」 「モモの木をたすけた女の子」 のようなお話を読むと、ペシミストには子供たちのための本は書けないだろうなと思ったり。「ヤング・ケート」 「名のない花」 といった美しい掌篇、滑稽な 「天国を出ていく」、子供の純心を描いた 「コネマラのロバ」 や小さな冒険譚 「十円ぶん」 も楽しい。「しんせつな地主さん」 も深いテーマで考えさせられる。やはり、この本を読んで本当に良かった思ったのは、「サン・フェアリー・アン」 に出会えたことかな。私には子供もいないし、子供と接することも無い、そんなこともあって、子供たちの存在というのは随分遠くにあって普段は考えたりすることも無い。そんな男が 「子供たちは自由で伸び伸びと遊び学ぶ権利がある。大人たちはそのために努力する義務がある」、子供というのは大人たちが命懸けで守らなければならないかけがえのない存在なんだと心から思い知ったのである。

さらにもう1冊
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「町かどのジム」 (松岡享子訳、著者の表記はエリノア・ファージョン、福武文庫、童話館出版)
8 歳の少年デリーと 80 歳の老人ジムとの友情を描いた作品。「ゆり木馬号」の船乗り (キャビン・ボーイ) だったジムがデリーに語り聞かせる 8 つの不思議な物語、そして、思わずホロリとくるエピローグ。デリーが夢中になるジムの冒険物語は、大人の私でさえ楽しくて面白くて。「みどり色のネコ」「ペンギンのフリップ」「九ばんめの波」など、動物が出てくるお話が特に好きだ。老人と子供が仲良く一緒に暮らせる世界というのが幸せな理想なのかもしれない。
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