ハードボイルド考 : 「拳銃(コルト)は俺のパスポート」 「殺し屋」 「裏切りの街」
2014 / 09 / 26 ( Fri )
「非情でなければ生きていけないが、一度も情にほだされたことが無いようじゃ、生きていたってしょうがない」※、若かりし頃はこの言葉に痺れたもので、これを持って、ハードボイルド論を展開する人も多いようである。ハードボイルドとは 「固茹で卵」 のこと、英米語のスラングで 「したたかな、抜け目のない、一筋縄ではいかない」 という意味だ。アメリカのパルプ・マガジン 「ブラック・マスク」 でデビューしたダシール・ハメットやレイモンド・チャンドラーの行動派探偵小説が、主人公のキャラクターやその文体からハードボイルド・ノヴェルと言われるようになり、この言葉が小説や映画などで広く使われるようになった。私の抱くイメージは、精神的に強じんで妥協を許さないといった感じだろうか。小説作法としては、感情を露わに表現せず、文章は会話と行動が中心。「感情を露わにしない」 という点では、わが愛するソウル・ミュージックとは真逆なところが面白い。冒頭の感傷的なニュアンスを含んだフィリップ・マーロウのセリフはハードボイルドの本質を見誤らせるもので、大人になってもこんな言葉に執着しているようではいけないというのが現在の心境だ。とは言え、ハードボイルドのなんたるかは、人それぞれ。ここでは私がこれぞ極めつけにハードボイルドだと思っている映画と小説を紹介したい。
※ 清水俊二訳は 「しっかりしていなかったら、生きていられない。やさしくなれなかったら、生きている資格がない」

拳銃は俺のパスポート
「拳銃(コルト)は俺のパスポート」
1967 年、日活、野村孝監督、宍戸錠主演。ハードボイルド映画の最高峰という世評に違わぬ傑作。ヒットマンの宍戸錠と相棒のジェリー藤尾は暴力団から命を狙われ、国外脱出を図る。追いつめられてやって来たのが船員たち相手の食堂兼旅館の渚館だ。おばさんの武智豊子と女給の小林千登勢が 2 人で切り盛りしている。小林は宍戸を狙う暴力団幹部の元女、どん底の生活から抜け出せないでいる。袋の鼠となった彼らを助けるべく、彼女は知り合いのだるま船に手引きをする。最後の展開は不自然なところもあるが、そんな不都合やプロットの弱さを消し去ってしまうほどの魅力がこの映画にはある。宍戸は言葉数も少なく、必要最小限、ヒロインの小林千登勢も幸薄そうでほとんど無駄口はたたかない。そんな 2 人がふと見せる優しい顔が貴重でこの上なく大切なものに思える。桶の水に映った女の顔が一瞬笑顔になる 42 分 20 秒、彼女に対して男の表情が和らぐ 48 分 45 秒、映画でしか味わえない至福の瞬間である。モノクロの画面は美しく静かで詩的な雰囲気、そして一転、ラストの銃撃戦は日本映画アクション史に残る名シーンだ。小林とジェリーを船上に残し、宍戸が敵に向かう場面等々、ウエットになる要素いっぱいなのに、そういった水っぽさは微塵もない。

ある殺し屋
「ある殺し屋」
1967 年、大映、森一生監督、私の大好きな市川雷蔵様主演。表の顔は小料理屋の主人、裏では殺しの請負人である雷蔵さんに、あばずれ女の野川由美子とヤクザの成田三樹夫が絡んで、組織から麻薬を強奪するお話。感情を露わにしない雷蔵さん、プロフェッショナルぶりも凄まじく、そんな徹底した人間が、成り行きとは言え、どうしようもなく面倒くさい野川と、どうしようもなく胡散臭い成田と組んで仕事をするというところが面白い。2 人のことは承知のうえ、裏切られても許しちゃう、これはハードボイルドなイエス・キリストだ。モラリストのアウトローという私好みのヒーローでもあります。3 人の関係が徐々に分かってくるところなど、ストーリーの運びもおしゃれ。カメラは宮川一夫でまことにスタイリッシュ、音楽のセンスもなかなかだ。小料理屋の女中で小林幸子さん (14歳) も出ているよ。

ポール・ケイン 裏切りの街
「裏切りの街」
河出文庫、1932 年、「ブラック・マスク」 に連載されたポール・ケインの唯一の長編。ハメット (1929 年デビュー) とチャンドラー (1934 年デビュー) を別格とすれば、最強最良のハードボイルド小説といっても過言ではない。腐敗した都市を舞台に繰り広げられる一匹狼の渡世人とギャングたちとの命懸けの攻防戦。主人公のケルズのタフさは筋金入り、心だけでなく身体も、手負いになってますますアドレナリンが出てくるって感じだ。援軍は 2 人、最強の助っ人ボーグと信頼厚き友ビアリ、流れ者の女グランギストも絡んでくる。場面の展開も速く、客観描写に徹したからからに乾いた文章だ。登場人物が多く、二転三転の展開でどんどん話が進んでいって、ちょっと混乱するが、途中から物語がぐっと収斂し、さらに加速するところが凄い。非情なる結末、これはヒーロー小説なんかではなく、過激なるハードボイルド・ノワールだ。もっと評価されるべき作家、しかし作品が少なすぎる。本作の他、5 年間の活動期間で 12 篇の中短篇のみ、翻訳されているのはそのうちの数篇だ。

紹介した映画 2 本とも同年 (1967 年) の公開で主人公が殺し屋、書こうと思って初めて気がついたが、原作者も同じく藤原審爾さん (「逃亡者」 と 「前夜」) である。なお、宍戸錠さんの愛用拳銃はコルトではなくベレッタ、どうしてこんなタイトルになったのかは不明だ。
洋画ではハンフリー・ボガートよりもマレーネ・ディートリッヒにハードボイル魂を感じる。「上海特急」 におけるハードボイルド的恋愛論なんていうのも面白いかもしれない。
最近、ダシール・ハメットを再読して、作家としての凄実に参っている。フィリップ・マーロウは私の永遠のヒーロー、チャンドラーは長編も良いが、中短篇にも強い愛着がある。この 2 人についても、何か書いてみたいね。
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